【磁気誘導からSLAMまで】自動フォークリフトの走行の仕組みをやさしく解説

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人手不足や作業効率化の課題に直面する物流現場では、自動フォークリフト(AGF)の導入が加速しています。
しかし、「どの走行方式を選べばよいのか」「価格や精度の違いは?」「屋外でも使えるのか」など、検討段階で疑問は尽きません。

走行方式の選択を誤れば、導入効果が半減し、追加コストが発生することも…

本記事では、AGFの制御で用いられるガイド方式とガイドレス方式の2つの方式と各自己位置推定手法について、仕組み・使用センサー・メリット・デメリットをわかりやすく比較。

現場環境に最適な走行方式選定のポイントを解説します。様々な存在するAGFの導入判断をスムーズにし、費用対効果を最大化するヒントが得られます。

目次

自動フォークリフトの走行方式を理解する重要性

物流業界では、慢性的な人手不足や長時間労働の是正ニーズから、省人化・自動化の動きが加速しています。その中で、自動フォークリフト(AGF:Automated Guided Forklift)は、無人化による効率化と安全性向上を両立できる手段として注目されています。

しかし、すべての自動フォークリフトが同じ仕組みで動いているわけではありません。走行方式やセンサー構成、設置物の有無はモデルによって大きく異なり、これらを理解しないまま導入すると「経路変更が難しい」「コストが想定以上にかかる」といった問題につながる可能性があります。

本記事では、主要な走行方式の仕組み・使用センサー・倉庫内設置物・メリット・デメリットを整理し、導入判断に役立つ情報を提供します。

自動フォークリフトの走行方式の全体像

自動フォークリフトの走行方式は、大きく「ガイド方式」「ガイドレス方式」の2つに大別されます。

ガイド方式(人工誘導型)

床に設置した磁気テープや壁の反射板など、走行ルートを示す人工的な目印(ガイド)に沿って走行する方式です。ルートが固定されているため安定性が高い一方、レイアウト変更には手間とコストがかかります。

  • レーザー誘導方式(反射板利用)
  • 磁気誘導方式(磁気テープ・磁気マーカー)
  • 光学誘導方式(ガイドテープ)

ガイドレス方式(自律走行型)

人工的なガイドを必要とせず、SLAM技術などを用いて周囲の環境を認識し、自律的に走行する方式です。ルート設定の柔軟性が高いのが特徴です。

  • SLAM(自然特徴)方式

また、これらの方式を組み合わせることで、精度と柔軟性を両立させるハイブリッド方式もあります。

自動フォークリフトの走行原理と特徴

このセクションでは、自動フォークリフトの走行原理の各方式と特徴について解説していきます。

【ガイド方式(人工誘導型)】

磁気誘導方式(磁気テープ・磁気マーカー)

  • 仕組み: 床面に敷設した磁気テープや、床面に埋め込んだ磁気マーカーを磁気センサーで検知し、経路をトレースして走行。
  • 使用センサー: 磁気センサー、位置補正用エンコーダ
  • 倉庫内設置物: 磁気テープまたは磁気マーカー(床工事必要)
  • メリット:
    • 高精度で安定した走行が可能
    • シンプルな制御で故障リスクが低い
    • 他方式に比べ導入コストが低め
  • デメリット:
    • 経路変更が困難
    • 床工事が必要で初期導入に時間がかかる
  • 適用例:固定ルートで大量搬送する製造工場や倉庫

光学誘導方式(ガイドテープ)

  • 仕組み: リフレクタ方式とも呼ばれるもので、車載の360°計測する2D-LiDARで周囲の反射板を測距し、位置を特定。
  • 使用センサー: 2D-LiDAR
  • 倉庫内設置物: レーザー反射板(一定間隔で壁や柱に設置)
  • メリット:
    • 高精度測位
    • 処理が軽く高速度で移動可能
    • 反射板の認識状態の判定が容易
  • デメリット:
    • 高所設置の場合、反射板設置工事が必要
    • 制御には常時一定数の反射板が見える必要あり
  • 適用例: 大型物流センターや工場の広範囲搬送

【ガイドレス方式(自律走行型)】

SLAM(自然特徴)方式

  • 仕組み: SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術を用い、搭載センサーで壁・柱・ラックといった環境の「自然特徴物」を認識して環境地図を作成。走行時は、その地図とリアルタイムのセンサー情報を照合(マップマッチング)することで自己位置を特定し、目的地まで自律走行します。人工的なガイドの設置が不要なため、ガイドレス方式の代表格とされています。
  • 使用センサー: LiDAR(主に3D-LiDAR)、ステレオカメラまたはモノカメラなど
  • 倉庫内設置物: 原則不要(既存の環境構造物をそのまま利用します)
  • メリット:
    • 導入・変更が容易:ガイド設置工事が不要で、ソフトウェア上で走行ルートを柔軟に設定・変更できます。
    • 高度な障害物回避:地図にない障害物も検知し、自律的に回避・再ルート検索が可能です(モデルによる)。
    • 環境変化への対応力:高度なSLAMでは、人や車両の往来、一時的な荷物の配置といった軽微な環境変化を認識し、安定した走行を継続できます。
  • デメリット:
    • 環境への依存:特徴物の少ない広大な空間や、景色が大きく変わる場所では自己位置を見失う(ロストする)可能性があります。
    • 大規模なレイアウト変更への対応:固定ラックの配置など、地図の元となる構造が大幅に変わった場合は、地図の再作成(リマッピング)が必要です。
    • コスト:高精度なセンサーや高度な情報処理が必要なため、シンプルなガイド方式に比べて高価になる傾向があります。
  • 適用例:レイアウト変更が想定される倉庫、人や他車両との協働が求められる現場、固定ラックが多く特徴を捉えやすい環境など。

【その他】

ハイブリッド方式

  • 仕組み: SLAM(自然特徴)方式とガイド方式(磁気誘導など)を組み合わせるなど、複数の方式を併用して環境適応性を向上させます。例えば、倉庫内はSLAMで柔軟に走行し、高精度な位置決めが必要な充電ステーションでは床のマーカーを読み取る、といった運用が可能です。
  • 使用センサー: 磁気センサー、LiDAR、カメラ、IMUなど複合
  • 倉庫内設置物: 誘導用磁気ラインやマーカー+既存環境利用
  • メリット:
    • 精度と柔軟性の両立
    • 屋内外連続走行が可能
  • デメリット:
    • システム構成が複雑化
    • 導入コストが最も高い傾向
  • 適用例: 屋内外を跨ぐ広範囲搬送ライン、複雑な運用が求められる工場

各方式の停止精度の目安

走行方式によって、期待できる停止精度は異なります。これは荷物の受け渡しや定位置作業の正確性に直結する重要な指標です。

ガイド方式の精度

物理的なガイドに沿って走るため、基本的に高い精度を維持できます。

  • 磁気誘導方式 / レーザー誘導方式: ±10mm以内。物理的に固定されたガイドや反射板を基準にするため、非常に高い精度が期待できます。高層ラックへの積み付けなど、精密な作業に適しています。
  • 光学誘導方式:±10mm~±20mm。磁気方式と比べてテープの歪みや汚れの影響を受けやすいため、若干精度が劣る場合があります。

ガイドレス方式の精度

環境を認識して走行するため、精度は周囲の状況やアルゴリズムに依存します。

  • SLAM(自然特徴)方式: ±20mm~±50mm。壁や柱などの特徴物を広く認識して位置を推定するため、ガイド方式ほどのミリ単位の精度は出しにくい傾向があります。ただし、走行の柔軟性は格段に向上します。

ハイブリッド方式の精度

両方の長所を活かし、場所によって精度を使い分けることができます。

  • ハイブリッド方式: 全体ルートはSLAM(精度±30mm程度)で走行し、荷受け・荷下ろしを行う特定のステーションでは床のQRコードや磁気マーカーを読み取り、±5mmといった高精度な位置決めを行う、という運用が可能です。

自動フォークリフト走行方式の比較表

以下は、上記の走行方式を比較した表となります。

分類方式停止精度(目安)コストレイアウト変更屋外対応
ガイド方式磁気誘導高 (±10mm)困難不可
光学誘導
(ガイドテープ)
中 (±20mm)普通不可
レーザー誘導高 (±10mm)普通屋内のみ
ガイドレス方式SLAM(自然特徴)中~高 (±20mm~)中~高容易可(※)
その他ハイブリッド可変(±5mm~)容易

(※)屋外対応は、GPSや3D-LiDARなど高精度なセンサーを備えた上位モデルに限られます。

走行方式選定のポイント

走行方式を選定する際には、現場の運用や計画に合わせて以下のポイントを考慮して検討すると良いでしょう。

  • 現場環境条件:通路幅、床の状態、障害物の多さ、屋内外の有無などを確認します。
  • 運用形態:決まったルートを往復する固定経路か、状況に応じてルートが変わる柔軟な経路が必要かを判断します。
  • 将来のレイアウト変更予定:将来的に生産ラインやラックの配置を変更する可能性があるかを見越します。
  • 初期費用とROIのバランス:導入コストだけでなく、人件費削減や生産性向上による投資対効果(ROI)を総合的に評価します。各方式で動く自動フォークの搬送効率なども参考情報として勘案する必要があります。
  • 保守体制やサポート網:トラブル発生時のメーカーや代理店の対応力、メンテナンス体制も重要な選定基準です。

今後の技術トレンド

近年のセンシングや認識・通信技術の急速な進化により、自動フォークリフト(AGF)は単なる「運搬機器」から、「高度な自律判断を行うスマートロボット」へと進化を遂げつつあります。以下に、今後の物流DXを加速する代表的な技術トレンドを紹介します。

  • AIによる障害物予測
    AGFは、LiDARや3Dカメラを用いた障害物検知だけでなく、AIによって周囲の人や車両の動きを“予測”することが可能になりつつあります。これにより、作業員や他の台車の進路を事前に把握し、衝突リスクのあるルートを回避した「動的ルート再生成(リアルタイム経路変更)」が実現できます。今後はAIが人や物の動きを学習することで、よりスムーズで協調的な搬送が期待されます。
  • 5G・V2X連携
    5Gの超低遅延・大容量通信の特性を活かし、クラウドとのリアルタイム連携や、AGF同士の車車間通信(V2V)、さらに設備や人との通信(V2X)による協調搬送が可能になります。これにより、複数台のAGFが倉庫内でスムーズに連携し、交通渋滞の回避や搬送効率の最大化が図れます。また、将来的には遠隔地からの集中制御や予測保全、全拠点横断での統合運用も視野に入ります。
  • 自動充電・バッテリー管理の高度化
    AGFは従来の手動充電から、ドックに自動帰還しての自動充電へと進化し、さらに近年ではワイヤレス充電(非接触式)や自動バッテリー交換システムの開発も進んでいます。また、バッテリー残量と搬送タスクをAIが管理することで、「搬送途中での電力切れ」などのトラブルを未然に防止し、稼働率の最大化と計画的なメンテナンスの実現が期待されています。
  • RaaS(Robotics as a Service)モデルの普及:
    これまでAGFは高額な初期投資が必要でしたが、今後は「使った分だけ支払う」サブスクリプション型の導入モデルが拡大していくと予想されます。RaaSでは、稼働時間や搬送距離などに応じて従量課金されるため、初期費用を抑えつつ導入しやすくなります。また、ソフトウェアの常時アップデートやリモート保守といった付加価値サービスも標準化され、導入企業は常に最新の環境で運用できるメリットがあります。中小企業やスモールスタートを希望する事業者にとって、有力な選択肢となりつつあります。

まとめ

自動フォークリフトの走行方式は、床や壁に目印を設置する「ガイド方式」と、周囲の環境を認識して自律走行する「ガイドレス方式」に大別されます。それぞれの方式にメリット・デメリットがあり、現場の環境や運用計画によって最適な選択は異なります。

導入成功には、現場の特性・運用計画・将来の拡張性まで考慮し、適切な方式を選ぶことが不可欠です。まずはメーカーや代理店に現場診断を依頼し、試験運用で方式の適合性を確認することをおすすめします。

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